がん治療はエイリアンとの熾烈な戦い

がんを知る

がんと向き合って、初めてがんのことがいろいろ分かってきた。がんになる前のがん治療についてのイメージが間違っていたことが分かり、目から鱗だった。がんの治療というのは、一般的な病気治療とは全く異なる戦略に基づいた治療法だった。

 

がん治療の戦略的アプローチ

自分ががんになる前は、一般的な病気治療もがん治療も同じ「治療」だと思っていた。でも、がんを治療するというのは、それまでイメージしていた「がんという病気を治す」というのではなくて、「がん細胞を退治する」ということだった。

骨折した骨を直す、胃炎を直す、というように元々体の中にある臓器が損傷・機能低下した場合に、それを「修復する(=生かす)」というのが一般的な「治療」という医療行為である。これに対して、がんというのは元々体にあった臓器ではではなく、新たに発生したエイリアン(異物)である。そのため、このエイリアンを体から除去する(=退治する)というのが、がん治療ということになる。つまり、同じ「治療行為」ではあるものの、「修復する(=生かす)」のではなく、「退治する(=殺す)」という全く異なる戦略的アプローチが必要とされるのが、がん治療ということになる。つまり、有名な映画エイリアンさながらに、体の中にいるエイリアンを退治するための熾烈な戦いが細胞レベルで行なわれるということである。

素人目に考えて、同じ医師が「生かす」と「殺す」という全く異なる戦略的アプローチの治療を兼任する、というのは治療法の発想的にも相反するから、かなり負担が大きいのではと心配になる。「殺す」方法に絞って経験を積んだがん専門医に診てもらいたいというのは、私も含めて多くの患者の本音であろう。

 

除去するか殺すか

体の中に出来たエイリアンを退治するやり方としては、大きく分けて二つあって、体内から取り除くか、体内でそのまま殺すかである。体内から取り除くためには、外科手術で切除するというのが唯一の方法になる。日本の医師は器用で外科手術のレベルも高く、術後の看護体制・栄養管理もしっかりしているから、早期のがんではこれが第一選択になっているようである。

がんが転移していて手術が困難な場合、あるいは臓器を失うことに抵抗のある患者にとっては、手術以外の方法-取り除く代わりに、その場(体内)で殺す-というのが選択肢になる。但し、前にも書いたが、がん細胞が大きくなると細胞数も飛躍的に多くなるので、腫瘍の塊を一気に体内から切除する手術に比べて、数百億~数千億個ものがん細胞の大軍を相手に戦うことは容易ではないということは想像できる。

体内でがん細胞を殺す方法には、表に示すようにいろいろな方法が考案されている。ただ、この方法の問題点は、手術と異なり、がん細胞を直接目視して識別出来ないということである。だから、どうやってがん細胞と正常細胞を区別してがん細胞のみを殺すかという、敵と味方を識別する仕組みが非常に重要となる。

従来からある薬剤(抗がん剤)は単なる毒薬なので敵味方識別能力が低いというか、識別せずに、がん細胞も正常細胞も一緒くたに殺してしまうので、患者は副作用で苦しむ事になる。近年の遺伝子工学とコンピューター技術の急速な発展のおかげで、敵味方識別能力を持たせた薬剤も開発されるようになって、ようやく副作用が大幅に軽減されるようになった。

免疫細胞の敵味方識別能力は、理論と臨床成果について医学界でも論争になっている。

目的 手段 内容 敵味方識別(IFF) 治療名称
がん細胞を体内から取り除く 切り取る 手術で切除する 医師 手術療法
がん細胞を体内で殺す 薬剤を使う 毒殺する 薬剤(抗がん剤) 化学療法
放射線を使う DNAを傷つけて自殺させる 医学物理士、診療放射線技師、医師 放射線療法
免疫細胞を使う 免疫細胞による代理殺傷 免疫細胞 免疫療法
他の手段を使う 電気で焼く、温度を上げる、血管塞いで兵糧攻めなど 医師 各手段の名称
Identification Friend or Foe (IFF):戦場で敵と味方を識別する装置のこと。がんとの闘いでも、敵であるがん細胞と味方である正常細胞の識別率が高い程、正常細胞の損傷が少なくなり、体への負担(副作用)が減る。

Posted by sio